---
天暦954年、マギア暦。
毎年ポレイアの月になると、ベルネーズ島全体が「テオス・ティス・イソロピアス」——均衡の神スタテラエを讃える神聖な祝祭——の喧騒に溶け込む。
この日は、世界が最も均衡を保つ瞬間、光と闇、希望と恐怖の狭間にあると信じられている。
至る所で、喜びが溢れ返る。首都の壮麗な宮殿から辺境の村々に至るまで、人々は笑い声と歌、そして空気中で煌めく魔法と共に通りを埋め尽くす。
普段は静かな漁村クレッタも、その様相を変える。潮風は、磯の香りと魚の焼ける芳ばしい匂いを運んでくる。
小さな焚き火が各所で揺らめく。海岸地方特有の魔法の笛「フラウト」の物悲しい旋律が、優しく流れる——その音色は、さながら波間と共に踊っているかのようだ。
「もっと薪を足せ!」
「あはは、ゆっくりやれよ!魚が焦げちまう!」
漁師たちは、魔法で温かさと美味しさを保った新鮮な漁獲を分け合う。子供たちは大人の間を駆け回り、色とりどりの蛍のように低く弾ける魔法の花火に大笑いする。
しかし、誰もがこの歓喜に浸っているわけではない。
小さな酒場「ゲマトス」の隅から、一対のエメラルドグリーンの瞳が、羨望を込めて群衆を見つめていた。
シエルは、一人膝を抱えて座っている。潮風に淡い茶色の髪を少し乱し、青白い黄色がかった肌は、祭りの灯りとは対照的に映える。
(僕も、あの中に入れたらな…)
走りたい。笑いたい。あの光の一部になりたい。
しかし、足は重く、まるで地面に縫い付けられたかのようだ。
魔法が生命の息吹であるこの世界で、シエルは空虚だった。異端、あるいは。
「一緒に遊ばないの?」
その声に、シエルははっとする。素早く振り返った。
そこには、二つほど年上に見える少女が立っていた。髪を簡素に結い、その瞳は澄んでいて、好奇心に満ちている。
シエルは息を呑む。
「…僕は、」音楽に掻き消されそうな小さな声で言う。「行きたいけど…行けないんだ。」
少女は首を傾げる。「行けない?どうして?」
シエルは一瞬黙り込む。そして、再び祭りの方へ目をやる。
「僕には…魔力の素質がないから。」ようやく絞り出した声は、「あの人たちみたいには。」
その口調は平坦だったが、その奥には長年抱えてきた痛みが微かに震えていた。
少女は嘲笑わなかった。哀れみもしなかった。
ただ、シエルの隣に腰を下ろし、膝が触れ合いそうな距離に座った。
「知ってる?」彼女は花火の光を見つめながら言う。「昔ね、あなたと同じように、魔力の素質がない男の人がいたの。」
シエルはすぐに顔を向けた。
「本当?」
「うん。」彼女は軽やかに答えた。「とても賢い人だったんだって。よく馬鹿にされたけど、彼は気にしなかった。」
シエルの瞳が輝く。「それで…それで、その人はどうなったの?」
少女は微かに微笑む。「ある日、東の川に水を汲みに行ったとき、彼は奇妙なものを見たの。」
「光?」シエルは待ちきれずに尋ねる。
少女は身を乗り出し、二人の顔がわずかに離れた距離になる。
そして、シエルの耳元で囁く。その声は、温かく、優しく、そして神秘的に。
「続きが知りたかったら…自分で手がかりを探してみて。」
シエルの顔はたちまち熱くなった。心臓が激しく鼓動を打つ。
「ぼ、ぼく…」
しかし、少女はもう立ち上がっていた。小さく笑い、そして、まるで最初から存在しなかったかのように、再び群衆の中へと走り去っていく。
シエルはただ呆然とするしかなかった。
耳が熱い。頬が赤く染まる。
そして胸の奥で、何かが震えていた——それは魔法ではなく、まだかつて感じたことのないほどの強い好奇心だった。
しばらくして、シエルは立ち上がり、家に帰ることにした。
祭りの喧騒は、今や遠く感じられた。まるで、自分には決して属せない世界のように。
扉が開くと同時に——
「シエルお兄ちゃん、おかえりー!」
小さな妹が走り寄り、シエルの足にぎゅっと抱きついた。
シエルは優しく笑い、妹を抱き上げる。「おう、ソラ。ゆっくりしろよ。」
台所では、母親が新鮮な魚を捌いているところだった。彼女は振り返り、温かい笑顔を向ける。
「おかえりなさい、祭りはどうだった?」
シエルはそっと首を振る。
「ううん、母さん。いつも通りだよ…僕たちには、そこで楽しめる魔法なんてないから。」
母親は手を止め、シエルに近づいて強く抱きしめた。
「シエル、」彼女は優しく言う。「自分は劣っているなんて、絶対に思わないで。」
彼女は子供の髪を撫でながら続ける。
「スタテラエ様は、世界の均衡を守っていらっしゃる。いつか、あなたも自分の力を見つけられるわ。」
「魔法のない…力?」シエルはか細い声で尋ねる。
母親は微笑む。「もしかしたら、どんな魔法よりも大きな力かもしれないね。」
シエルは、母の肩に顔を埋めた。
その言葉は、まだ心の傷を完全に癒してはいなかった——けれども、今日は、何かが違っていた。
一つの物語。
一つの囁き。
魔法のない子供の話…そして、東の川の奇妙な光の話。
Please sign in to leave a comment.